[技術コラム]【カイロスキの電源設計・第3部】LLC共振/共振型インバータ/降圧チョッパ+フルブリッジ・ハーフブリッジ/反転チョッパ/コッククロフト — 高効率・高電圧電源のトポロジー実績【各論②・最終回】

高効率化(LLC共振)、超高電圧化(コッククロフト・ウォルトン回路)、広入力レンジ対応(反転チョッパ)。いずれも、絶縁型主力トポロジーの延長線上では到達しにくい領域です。

本記事では5つのトポロジーの原理・長短所と選定の勘所を、カイロスキの量産採用実績(出力2.5W〜4,000W、DC5V〜DC25kV級・AC7kV級)とともに解説します。

効率を極限まで高めたい。数kV〜数十kVの高電圧が欲しい。広い入力電圧範囲が必要。

本記事は全3部構成の第3部(各論②・最終回)です。第2部では絶縁型の主力トポロジーを扱いました。第3部では、高効率化・高電圧化・特殊出力に用いるトポロジーを、カイロスキの開発実績とともに解説します。

※本記事の定量値は参考値であり、実際の値は仕様により変動します。

図1:高効率・高電圧・特殊トポロジー5種の狙いと代表用途(早見マップ)
目次

LLC共振コンバータ(高効率・高周波化・小型化)

原理・得意領域:共振タンク(Lr・Lm・Cr)を用い、ZVS(ゼロ電圧スイッチング)でターンオン損失を実質ゼロに近づけます(ターンオフ損失は残るため、損失全体がゼロになるわけではありません)。ハードスイッチング方式が概ね効率80〜88%であるのに対し、LLC共振はZVSで概ね94〜98%(理想値)に達し得ます。高周波化しても損失が小さく、磁気部品を小型化できます。

図2:LLC共振コンバータの構成と長所・短所

長所/短所:高効率・低EMI・小型化に強い一方、設計難度が高く(磁気設計・デッドタイム・ゲイン曲線)、広い入力範囲や軽負荷のレギュレーションに工夫が要ります。共振タンクの励磁インダクタンス・漏れインダクタンスはトランス構造そのものに織り込む必要があるため、カスタムコイル・トランス設計と一体で最適化するのが定石です。

LLC共振コンバータトポロジーの採用実績

  • 4,000W高圧水銀ランプ電源(AC180〜264V/AC380〜480V→AC580V/7A・100Hz矩形波、絶縁型、船舶規格、量産化、UV殺菌・水処理):大電力領域でのLLC共振採用による高効率・高信頼設計。
  • 300W特殊レーザー電源(AC90〜264V→DC3,300V/90mA、絶縁型、量産化、分析器向け):フルブリッジLLC共振の2次側にコッククロフトを接続し、高効率のまま高圧出力を実現。定電圧/定電流制御。

共振型インバータ(ランプ点灯・正弦波出力・低EMI)

原理・得意領域:共振タンクで電流(電圧)を正弦波状に整形し、ZVSで低損失・低ノイズ駆動します。共振のQで高い始動電圧を得やすく、放電ランプの点灯に適します。正弦波出力・高始動電圧・低EMIが求められる用途向きです。

図3:共振型インバータの構成と正弦波によるランプ駆動

共振型インバータトポロジーの採用実績

  • 250W×2灯 低圧水銀ランプ電源(AC90〜264V→AC125V/2A・50kHz正弦波×2、非絶縁型、UL、量産化、UV殺菌・UV硬化):スタータ回路内蔵で1.3kVの始動電圧を供給、定電流制御。
  • 25W特殊ランプ電源(DC24V→AC25V/0.6A・50kHz正弦波、非絶縁型、量産化、光学分析):始動電圧650Vを供給、定電流制御。

仕様が固まっていない段階でも、方向性からご提案できます。

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降圧チョッパ+フルブリッジ/ハーフブリッジ(HIDランプ用の矩形波駆動)

原理・得意領域:前段の降圧チョッパ(バック)でDCを調整し、後段のフルブリッジ(Hブリッジ)またはハーフブリッジで低周波(100〜200Hz程度)の矩形波ACを生成します。数百W〜kW級の高圧放電(HID)ランプ用電源(電子バラスト)に用います。矩形波駆動は音響共鳴や電極消耗を抑えます。非絶縁で構成できる場合が多いです。

フルブリッジ/ハーフブリッジの選び分け:フルブリッジは4石でVinをフルに使えるため出力電圧を確保しやすく、ハーフブリッジは2石+分圧コンデンサで部品点数を抑えられる一方、出力振幅は入力の約50%に制限されます。

図4:降圧チョッパ+ブリッジによる矩形波交流の生成

長所/短所:定電力/定電流/定電圧制御を柔軟に実装できる一方、段数が多く部品点数が増えます。

降圧チョッパ+フルブリッジ/ハーフブリッジトポロジーの採用実績

  • 1,100W低圧水銀ランプ電源(AC180〜240V→AC140V/7.9A・100Hz矩形波、非絶縁型、量産化、UV殺菌・水処理):600〜1,100Wの調光、予熱回路と750Vの始動電圧、定電圧/定電流/定電力制御。
  • 500W高圧水銀ランプ電源(AC180〜264V→AC140V/3.5A・200Hz矩形波、非絶縁型、量産化、UV硬化)。

入力レンジが出力電圧をまたぐときの反転チョッパ(昇降圧コンバータ)

原理・得意領域:単一スイッチ・インダクタ・ダイオードという少部品構成で、出力電圧が入力電圧より高くなる場合も低くなる場合も1つの回路で対応できる非絶縁DC/DCコンバータです(昇降圧型。回路上、出力の基準電位が入力に対して反転することから「反転チョッパ」と呼ばれます)。一般的な降圧チョッパは入力が出力を下回る局面に対応できませんが、反転チョッパは入力電圧レンジが出力電圧をまたぐ仕様——たとえば「入力DC70〜280V、出力DC80V」のように、入力が出力より高い場合も低い場合もある仕様——で有効です。

図5:反転チョッパの構成と昇降圧動作

長所/短所:単一スイッチ・少部品で、昇圧・降圧をまたぐ入力レンジに対応できます。基板サイズの制約でPFC回路を別途搭載できない場合、力率改善機能を反転チョッパ自体に統合する「1コンバータPFC」という構成も可能で、部品点数を抑えつつ規格の力率要求を満たせます。一方で非絶縁のため使用箇所が制約され、入力変動の影響を受けやすく出力リップルが大きくなる傾向があるため、回路の取りまとめ・チューニングには慎重な検討が必要です。

反転チョッパトポロジーの採用実績

  • 21W LED照明用電源(AC90〜254V/DC70〜280V→DC80V/0.26A、非絶縁型、量産化、公共設備照明):一般的な降圧チョッパでは対応できない入出力電圧仕様のため反転チョッパを採用。基板サイズ制約でPFC回路を別途搭載できなかったため、力率改善機能を統合した1コンバータPFC付き反転チョッパとして開発。比較的簡素な回路で電気的仕様を満たせる一方、入力変動の影響や出力リップルの大きさから回路の取りまとめ・チューニングには細心の検討を要しましたが、照明用電源として実用上十分な性能に到達し、量産に至っています。

コッククロフト・ウォルトン回路による超高電圧の生成

原理・得意領域:ダイオードとコンデンサのはしご回路で、交流・パルス入力を多段昇圧して数kV〜数十kVの高圧DCを得ます(コッククロフト・ウォルトン回路。以下コッククロフト)。低電流・高電圧に適し、フライバックやLLC共振の後段として組み合わせます。レントゲン、高圧レーザー、静電気応用などに用います。

段数を増やすほど出力電圧は積み上がりますが、無制限に段を重ねられるわけではありません。負荷電流を流したときの電圧降下とリップルは段数の増加に対して急激に増えるため、実用上は「段数を増やして電圧を稼ぐ」より「前段のトランス出力電圧と駆動周波数を上げて段数を抑える」ほうが有利になる領域があります。前段の高圧トランス設計と段数配分をセットで最適化することが、この方式の要点です。

図6:コッククロフト・ウォルトン回路(倍電圧整流)による超高圧生成

コッククロフトトポロジーの採用実績

  • 25kV出力高圧電源(DC24V→DC25kV/25µA ほか、絶縁型、量産化、レントゲン):フライバック+コッククロフトで低電流・超高圧を実現。
  • 300W特殊レーザー電源:フルブリッジLLC共振+コッククロフトでDC3,300Vを生成。数百Wクラスの高圧電源にも対応。

高効率・高電圧・特殊トポロジーの選び分け(早見表)

表1:高効率・高電圧・特殊トポロジー5種(LLC共振/共振型インバータ/降圧チョッパ+ブリッジ/反転チョッパ/コッククロフト)の狙い・長所・代表用途の比較
トポロジー 狙い 主な長所 代表用途
LLC共振 高効率・小型 ZVSで高効率・低EMI・高周波小型化 電気自動車のバッテリチャージャ、医療用電源、ハイエンド電気製品
共振型インバータ ランプ駆動 正弦波・高始動電圧・低EMI・回路/制御がシンプル UV殺菌用電源、UV硬化用電源、蛍光灯用電源
降圧チョッパ+
フル/ハーフブリッジ
高圧放電駆動 直流での電圧/電流/電力制御のみで矩形波交流の制御が可能 HIDランプ用電源、UV殺菌用電源、UV硬化用電源
反転チョッパ 広入力レンジ対応 非絶縁・少部品で昇圧/降圧を1回路化 LED照明広入力レンジ電源、負電圧電源、スマートフォンのディスプレイ用電源
コッククロフト 超高圧生成 低電流でkV〜数十kV・高圧トランス設計の容易化・出力電圧UPが容易 レントゲン、高圧レーザー、空気清浄機、イオン発生装置

「この仕様ならどうなるか」だけでも、お気軽にお問い合わせください。

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よくある質問:LLC共振・コッククロフト・反転チョッパの使い分け

Q1. LLC共振はどんな案件で採用すべきですか。

高効率と小型化が最優先で、かつ量産数が見込める案件です。ZVSによりターンオン損失を実質ゼロにできるため、ハードスイッチング方式の概ね80〜88%に対し、条件が整えば94〜98%(理想値)まで効率を引き上げられます。高周波化しても損失が増えにくいため磁気部品を小型化できる一方、共振タンクの定数設計・デッドタイム・ゲイン曲線の作り込みに工数がかかります。少量多品種で開発費の回収が難しい案件では、フォワードやフライバックのほうが総コストで有利になる場合があります。

Q2. 数kV〜数十kVの高電圧は、トランスの昇圧比だけでは実現できないのですか。

理論上は可能ですが、巻数比を上げるほど二次巻線の層間絶縁・沿面距離・浮遊容量の問題が急激に厳しくなり、トランスが大型化し歩留まりも落ちます。コッククロフト・ウォルトン回路を後段に置けば、トランス出力を数百V〜数kVに抑えたまま多段整流で目標電圧まで積み上げられるため、高圧トランスの設計難度を大きく下げられます。カイロスキではDC24V入力からDC25kV/25µAを出力する電源を、フライバック+コッククロフトの構成で量産化しています。

Q3. コッククロフトの段数は多いほど有利ですか。

いいえ。段数を増やせば無負荷時の出力電圧は積み上がりますが、負荷電流を流したときの電圧降下とリップルは段数の増加に対して急激に大きくなります。実用上は、段数を増やして電圧を稼ぐより、前段のトランス出力電圧と駆動周波数を上げて段数を抑えるほうが有利になる領域があります。前段トポロジー・トランス設計・段数配分をセットで最適化することが要点です。

Q4. 入力電圧範囲が出力電圧をまたぐ仕様には、どのトポロジーを使いますか。

非絶縁でよければ反転チョッパ(昇降圧コンバータ)が第一候補です。降圧チョッパは入力が出力を下回る領域に対応できないため、たとえば「入力DC70〜280V、出力DC80V」のように入力が出力より高い場合も低い場合もある仕様では成立しません。反転チョッパは単一スイッチ・少部品で両方の領域をカバーできますが、非絶縁のため使用箇所が制約され、出力リップルが大きくなる傾向があります。絶縁が必須の場合はフライバックやLLC共振を検討します。

Q5. HIDランプの電源に矩形波駆動を使うのはなぜですか。

高圧放電ランプは特定の周波数帯で管内に音響共鳴が発生し、アーク不安定・ちらつき・ランプ破損の原因になります。100〜200Hz程度の低周波矩形波で駆動すると、この共鳴帯を避けつつ電極への負荷を交互に分散できるため、電極消耗を抑えられます。前段の降圧チョッパで直流の電圧/電流/電力を制御し、後段のフルブリッジまたはハーフブリッジで極性を反転させる構成が一般的です。

まとめ:選べるトポロジーの幅が、電源の到達点を決める

全3部を通じて示したのは、電源はトポロジー選定という設計思想の選択で、効率・サイズ・量産単価・規格適合の到達点が変わるという一点です。「どこで開発しても同じ」ではありません。トポロジー選定の判断軸(効率・サイズ・コスト・規格対応の4軸)については 第1部(総論) で、絶縁型主力トポロジーの使い分けについては 第2部(各論①) で詳しく解説しています。

図7:カイロスキの高効率・高電圧トポロジー量産採用実績(8案件)

カイロスキの実績は、出力2.5W〜4,000W、出力電圧DC5V〜DC25kV級・AC7kV級にわたり、絶縁型主力(フォワード/フライバック/プッシュプル)から高効率・高圧・特殊(LLC共振/共振型インバータ/降圧チョッパ+フルブリッジ・ハーフブリッジ/反転チョッパ/コッククロフト)まで、幅広いトポロジーを実機・量産で採用してきました。選択肢が多いほど、仕様に合った方式を選べます。詳しい対応範囲は 電源基板・電源回路開発ページ(実績一覧) をご覧ください。

※本記事で「量産化」「量産採用」と記載した案件は、お客様先で最終製品として量産されたことを示します。

「この仕様なら、どのトポロジーが最適か」をご相談ください。

概略仕様(入出力・絶縁要否・目標効率・目標サイズ・想定量産数・取得規格)をお知らせください。方式の方向性からご提案します。高効率化・高電圧・特殊出力のご相談も歓迎です。

本シリーズ(全3部)
第1部:電源基板の見積りはなぜ開発会社によって大きく違うのか(総論)
第2部:絶縁型電源トポロジーの「選び分け」と量産実績【各論①】フォワード/フライバック/プッシュプル
第3部:高効率・高電圧・特殊トポロジーの選び分けと量産実績【各論②】LLC共振/共振型インバータ/降圧チョッパ+ブリッジ/反転チョッパ/コッククロフト 本記事
この記事を書いた人

西尾(にしお)|電源回路設計スペシャリスト

電源回路設計歴18年以上。カイロスキ株式会社にて、フォワード/フライバック/プッシュプル/LLC共振/共振型インバータ/降圧チョッパ+フルブリッジ・ハーフブリッジ/反転チョッパ/コッククロフト回路など主要トポロジーを用いた電源基板の受託開発を担当。出力2.5W〜4,000W、DC5V〜DC25kV級・AC7kV級の設計実績をもとに、仕様段階でのトポロジー選定から量産移行までを一貫して支援しています。

カイロスキ株式会社 会社概要 | 電源基板・電源回路開発 | カスタムコイル・トランス設計

*本記事の記載内容は、一般的な技術論および当社における開発実績に基づく見解です。実際の開発においては、プロジェクトごとの要求仕様や使用環境により最適なアプローチが異なるため、実装の一例としてご活用ください。

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