電源仕様を決める際、「絶縁/非絶縁」だけで判断していませんか。
絶縁の要否に加えて、次のQ1〜Q3のような要求がある場合、どのトポロジーが最適でしょうか。ご要望をいただければ、方式の方向性からご提案します。
Q1.DC24V・5V・±12Vの多出力を1台で安定化したい(200W級)
Q2.数十Wの補助電源をとにかく少部品・低コストで作りたい
Q3.DC24VからAC7kVへ昇圧したい
答えは、それぞれフォワード/フライバック/プッシュプル。
ただし、これは以下の条件を想定した場合の選定例です。要求仕様が変われば最適解も変わります。
- Q1(フォワード):出力200W級/絶縁必須/DC24V・5V・±12Vの4出力を1台で/1系統のフィードバックで各出力のクロスレギュレーションを確保したい/出力リップルを抑えたい——を想定した場合。数十W〜数百W帯では、L-Cフィルタにより出力電流が連続となるフォワードが低リップル・多出力安定の点で第一候補になります。
※さらに大電力・高効率が求められる場合は、2石フォワード/アクティブクランプフォワード/LLC共振も候補になります。 - Q2(フライバック):出力数十W級/絶縁必須/出力リップルの要求は緩い/部品点数・コスト・基板面積を最優先/補助電源として複数レールを持たせたい——を想定した場合。出力インダクタが不要で部品点数を最小化でき、巻線追加のみで多出力化できるフライバックが有利です。
※低リップルが必須ならフォワード、効率をさらに求めるなら疑似共振(QR)制御の追加を検討します。 - Q3(プッシュプル):入力がDC24Vと低く昇圧比が数百倍/出力電力は十数W級/出力はAC正弦波/コア利用率を上げてトランスを小型化したい——を想定した場合。2つのスイッチでコアの磁束を両方向に使えるプッシュプルが、低入力からの高圧昇圧に適します。
※出力電力が大きい場合や入力電圧が高い場合は、ハーフブリッジ/フルブリッジが有利になります。
※上記はあくまで一例です。規格適合(UL/TÜV/IEC)、EMC、基板サイズ、量産数量、コスト目標などの条件により、最適なトポロジーは変わります。
本記事は全3部構成の第2部(各論①)として、絶縁型の主力トポロジーであるフォワードコンバータ・フライバックコンバータ・プッシュプルコンバータを、原理・得意領域・カイロスキの量産実績とともに解説します。トポロジー選定がなぜ性能とコストの上限を決めるのかという前提については第1部(総論)を、LLC共振や高電圧・特殊用途のトポロジーについては第3部(各論②)をご覧ください。
※本記事の定量値は参考値であり、実際の値は仕様により変動します。
フォワードコンバータ(中電力・低リップルの主力)
原理・得意領域:トランスのオン期間中に2次側へエネルギーを伝達し、出力にL-Cフィルタを持つため電流が連続し、出力リップルが小さいのが特長です。得意領域はおおむね数十W〜数百W(大電力では2石フォワードやアクティブクランプフォワードへ展開)。トランスをリセットする回路(リセット巻線・スナバ回路等)が必要です。
長所/短所:出力リップルが小さく多出力化しやすい一方、ハードスイッチングのため高周波化に上限があります。
- 200W多出力カスタム電源(DC24V/8.7A・5V/4A・12V/2A・-12V/0.5A、絶縁型、UL)
各出力の2次側チョークコイルを磁気結合し、1つのフィードバック系で多出力を安定化。 - 100Wハロゲンランプ電源(AC90〜264V→DC12V/9A、絶縁型、UL/TÜV、顕微鏡)
0〜12V調光+定電圧/定電流制御。 - 200Wキセノンランプ電源(AC90〜264V→DC25V/8A、絶縁型、光学分析)
単一のフォワードコンバータのみで始動時の開放電圧120Vと定常時の25V/8Aを供給、従来比で小型化。 - ほか160Wハロゲンランプ電源、500Wキセノンランプ電源など、100〜500W帯で採用多数。
フライバックコンバータ(低〜中電力・少部品・多出力)
原理・得意領域:トランス(結合インダクタ)にエネルギーを蓄えて、放出する方式です。出力インダクタが不要で部品点数が少ないのが最大の特長。得意領域は〜数十W級。巻線追加で多出力化が容易です。
長所/短所:少部品・低コスト・多出力容易ですが、出力リップルが大きめでスイッチ電圧応力が高く、大電力には不向きです。スナバによるスパイク抑制、スイッチ耐圧、リーケージ(漏れインダクタンス)管理が、コスト・効率・EMCに直結します。
- 25kV出力高圧電源(DC24V→DC25kV/25µA ほか、絶縁型、レントゲン)
フライバック+コッククロフト(倍電圧整流)で低電流・超高圧を生成。 - 50Wハロゲンランプ電源(AC90〜264V→DC12V/4.4A、絶縁型、UL/TÜV)
PFCフライバック+同期整流型の降圧コンバータを組み合わせた構成(詳細は後述のコラム:番外編を参照)。
プッシュプルコンバータ(低入力電圧・大電流/昇圧向き)
原理・得意領域:2つのスイッチがセンタタップ付きトランスを交互に駆動し、コアの磁束を両方向に使う方式です。コア利用率が高く、DC24V/48Vなど低い入力電圧から大電流を扱う、または高電圧へ昇圧する用途に強みがあります。DC/ACインバータの初段にも用いられます。
長所/短所:コア利用率が高い一方、偏磁(コア飽和)対策が必要で、スイッチ電圧応力は入力電圧の約2倍になります。
- 15Wオゾナイザー用電源(DC24V→AC7kV/500Hz正弦波、絶縁型、測定機器)
トランスと発振回路で24Vから7kVへ昇圧。低入力から高電圧を得るプッシュプルの典型例。
絶縁型主力トポロジーの選び分け(早見表)
| フォワード | |
|---|---|
| 得意な出力帯 | 数十W〜数百W |
| 主な長所 | 低リップル・多出力安定 |
| 主な短所 |
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| 代表用途 |
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| フライバック | |
| 得意な出力帯 | 〜数十W |
| 主な長所 | 少部品・低コスト・多出力容易 |
| 主な短所 |
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| 代表用途 |
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| プッシュプル | |
| 得意な出力帯 | 低入力・大電流/昇圧 |
| 主な長所 |
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| 主な短所 | 偏磁対策要・スイッチ電圧がVin×2 |
| 代表用途 |
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まとめ:絶縁型でも、組み合わせで到達点は変わる
絶縁型といっても、フォワード/フライバック/プッシュプルというトポロジー選定に加え、PFC・同期整流という設計要素の組み込み方で、効率・サイズ・量産単価・規格適合の到達点は変わります。
※本記事で「量産」「量産化」と記載した案件は、お客様先で最終製品として量産されたことを示します。
カイロスキは、100〜500W帯のフォワード多出力、低〜中電力・高圧初段のフライバック、低入力→高圧のプッシュプルまで、絶縁型主力トポロジーを実機・量産で採用してきました。ワイド入力/緻密な出力電圧制御が求められる電源では、PFC・同期整流型コンバータという設計要素を組み合わせて実現しました。
PFC・同期整流という回路応用技術
PFC+同期整流は、フォワード/フライバック/プッシュプルと並ぶ「トポロジー」ではありません。これらは単独の回路方式ではなく、主力トポロジーに組み合わせる前段(PFC)と後段の要素技術です。どのトポロジーを選んだ後でも、必要に応じて追加を検討する設計要素、という位置づけになります。
- PFC(力率改善):入力電流の高調波を抑え、IEC 61000-3-2に適合させます。ワイド入力かつ規格適合が求められる場合に前段として検討します。
- 後段の選択肢:絶縁型トポロジーには同期整流を採用し(2次側の整流ダイオードをMOSFETに置き換え導通損失を低減。低電圧・大電流出力ほど効果が大きい)、非絶縁トポロジーでは降圧チョッパのフライホイールダイオードを同期整流に置き換えるケースもあります。
PFC自体にも設計の選び分けがあります。標準的な昇圧型PFCは高い力率を確保できますが部品点数がやや多く、基板サイズに制約がある場合は簡易的なValley-fill型PFCを選ぶこともあります。力率はやや低下しますが、実用上問題ないレベルを簡素な回路で実現できます。
- 50Wハロゲンランプ電源(AC90〜264V→DC12V/4.4A、絶縁型、UL/TÜV、顕微鏡)
フライバックにPFC+同期整流を組み合わせ、低圧大電流出力の効率確保とワイド入力・規格対応を両立。
- LED照明用電源(AC90〜266V→DC100V/1A、非絶縁型、工場・公共施設照明)
昇圧型PFC+降圧チョッパ。PFC・降圧チョッパともに疑似共振制御を採用しEMIに配慮、外部信号により出力電流を5〜100%で調光可能。軽負荷から定格負荷まで安定動作する制御回路を重点確認。 - 5W LED照明用電源(AC90〜266V→DC30V/0.2A、非絶縁型、工場・公共施設照明)
Valley-fill型PFC+降圧チョッパ。基板サイズ制約で昇圧型PFCが搭載できないため簡易力率改善を採用。降圧チョッパ段は上記モデルと回路構成を共通化し、小型ながら同等の使い勝手を実現。
なお、PFC機能を単一のコンバータに統合する「1コンバータPFC」という構成もあります。
よくある質問:絶縁型主力トポロジーとPFCの使い分け
Q1. 多出力を1台で安定化したい場合、フォワードとフライバックのどちらを選びますか。
出力リップルの要求で分かれます。フォワードは出力にL-Cフィルタを持ち電流が連続するため、リップルが小さく多出力を安定して制御できます。1系統のフィードバックで各出力のクロスレギュレーションを確保したい200W級の多出力電源では、フォワードが第一候補になります。一方、リップルの要求が緩く、部品点数・コスト・基板面積を優先する数十W級の補助電源であれば、巻線追加だけで多出力化できるフライバックが有利です。
Q2. フライバックでスナバ回路や漏れインダクタンスの管理が重要なのはなぜですか。
フライバックはスイッチにかかる電圧応力が高く、スイッチング時に生じるスパイクを抑える必要があるためです。スナバによるスパイク抑制、スイッチの耐圧選定、漏れインダクタンス(リーケージ)の管理は、いずれもコスト・効率・EMCに直結します。漏れインダクタンスや巻線間の結合容量は市販トランスではコントロールできないため、カスタムトランスと組み合わせて最適化する場合があります。
Q3. プッシュプルのスイッチ電圧応力はどれくらいですか。
入力電圧の約2倍になります。2つのスイッチがセンタタップ付きトランスを交互に駆動し、コアの磁束を両方向に使うため、コア利用率が高く、低い入力電圧から大電流や高電圧を得やすい構成です。その代わり、スイッチの耐圧に加えて偏磁(コア飽和)の対策が必要になります。なお2つのスイッチはGND共通で動作するため、ハイサイド電源や複雑なゲートドライバは不要です。
Q4. PFCと同期整流は、フォワードやフライバックと並ぶトポロジーですか。
いいえ。PFCと同期整流は単独の回路方式ではなく、主力トポロジーに組み合わせる前段と後段の要素技術です。PFCは入力電流の高調波を抑えてIEC 61000-3-2に適合させるために前段へ置き、同期整流は2次側の整流ダイオードをMOSFETに置き換えて導通損失を下げるものです。同期整流は低電圧・大電流出力ほど効果が大きくなります。どのトポロジーを選んだ後でも、必要に応じて追加を検討する位置づけです。
Q5. 昇圧型PFCとValley-fill型PFCは、どのように使い分けますか。
基板サイズの制約で決まる場合が多くなります。標準的な昇圧型PFCは高い力率を確保できますが部品点数がやや多く、基板に載せきれない場合は簡易的なValley-fill型PFCを選びます。力率はやや低下しますが、簡素な回路で実用上問題ないレベルを実現できます。カイロスキでは開発段階の事例として、DC100V/1A出力のLED照明用電源に昇圧型PFC、DC30V/0.2A出力の5W機にValley-fill型PFCを採用しています。
理想の電源仕様をお知らせいただければ、トポロジーを含めてご提案します。次の概略情報をいただければ、方式の方向性から検討できます。
- 入出力電圧仕様/絶縁要否
- 目標効率/目標サイズ
- 想定量産数/取得予定規格(UL, TÜV, IEC, CISPR等)
- 出力数と、各出力のリップル要求
第1部:電源基板の見積りはなぜ開発会社によって大きく違うのか(総論)
第2部:絶縁型電源トポロジーの「選び分け」と量産実績【各論①】フォワード/フライバック/プッシュプル 本記事
第3部:高効率・高電圧・特殊トポロジーの選び分けと量産実績【各論②】LLC共振/共振型インバータ/降圧チョッパ+ブリッジ/反転チョッパ/コッククロフト
*本記事の記載内容は、一般的な技術論および当社における開発実績に基づく見解です。実際の開発においては、プロジェクトごとの要求仕様や使用環境により最適なアプローチが異なるため、実装の一例としてご活用ください。

